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はじめに
2024年10月2日、Nature Portfolioにて「The FlyWire connectome」というコレクションが公開されました。このコレクションは、ショウジョウバエの全脳神経コネクトームFlyWireに関する論文の集積であり、いずれも高い評価を受けるジャーナルに掲載されています。
の記事では、FlyWireというツールが神経科学にどのような変化をもたらすのか、個人的な視点を交えて解説していきます。
FlyWireとは?
FlyWireは、ショウジョウバエの全脳神経コネクトームを網羅する大規模なデータベースです。
これまでにも、Janelia Research Campusからショウジョウバエの脳の一部である「ヘミブレイン」の神経コネクトームが公開されていましたが、FlyWireはそれ以上の、脳全体のデータをカバーしています。
これにより、従来は確認できなかった左右両脳の神経接続が詳細に解明され、神経回路の構造が細胞レベルで理解できるようになりました。
FlyWireでは、以下のようなことができるようになっています。
神経伝達物質の予測:
各ニューロンがどの神経伝達物質を分泌するかも推定されており、機能的な神経回路図が描けます。
そのため、神経回路シミュレーションの精度が格段に上がり、さらには研究をする上でも一細胞レベルでの細胞検索や機能の推測が可能となりました。
神経細胞同士の接続情報:
各ニューロンがどの細胞と接続しているかを網羅的に検索可能です。
回路全体の解析:
接続された細胞の次に位置するニューロンなど、回路をどのような神経細胞が形成しているのかまで追跡可能です。
FlyWireがもたらす神経科学の今後
FlyWireによって、ショウジョウバエの神経科学は次のような進化を遂げています。
1. 神経回路シミュレーションの精度向上
細胞レベルの神経回路データが利用可能になったことで、神経回路シミュレーションの精度が格段に向上しました。
これにより、神経科学の研究では、これまで不可能だったレベルの神経回路の機能推定が可能となってきました。
2. 研究の効率化と進化
GMR系統やVT系統といったショウジョウバエの遺伝子系統とも相性がよく、狙った神経細胞を特異的に標識するためのGAL4ドライバーも簡単に見つけられるようになりました。
3. 論文出版のハードルの上昇
情報量が膨大になったため、単にニューロンを発見するだけではトップジャーナルへの論文掲載は難しくなっているように感じます。
新たな神経細胞の発見に加え、そのニューロンがどのように神経活動を行うのか、何に応答するのかなど、さらなる詳細な分析が求められているように感じます。
将来の展望と課題
現在のFlyWireはメスの全脳コネクトームですが、オスのVNC(腹側神経索)データも公開されつつあり、今後はオスの全脳コネクトームが公開される可能性もあります。
このような進展により、ショウジョウバエの神経科学研究はどんどん進歩していくと思います。
しかし、情報が増えるにつれ、研究のハードルも上がり続けています。将来の研究者たちは、より高度な研究デザインとデータ解析能力を備え、情報の波を乗りこなしていく覚悟が必要になるかも知れなないです。
終わりに
FlyWireは神経科学の未来を切り開く革新的なツールであり、これからの研究がどのように進化するのか、非常に楽しみです。
おまけ
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より多くの方に最新の神経科学の進展を知っていただけるとうれしいです。